100キロの葡萄からたったの2-3リットル!モデナの伝統的バルサミコ酢作りの真髄に迫る!

本場のバルサミコ酢作り
〜イタリアで料理教室の講師になるまで〜

本場のバルサミコ酢作りの工程

「伝統的なバルサミコ酢作り」を説明するのは簡単なようで実はとても難しいと言えます。

左上から下へ順に ①白ぶどうトレビアーノ ②除梗破砕機にぶどうを入れる様子 ③除梗破砕機の内部 ④葡萄の実と果梗を分けて実を半潰しにする際に圧搾機から流れ出るモスト(ぶどうの絞り汁)
右上から下へ順に ①圧搾機に圧力をかける様子 ②圧搾が終わった後に残ったぶどうの皮と種 ③大釜に火をつけアクを取り除く ④沸騰後12時間経ち、出来上がったモストコット


 

ポイントは「時間と手間」。それにつきます。作業工程を簡単に説明すると、

葡萄を絞る

葡萄液を直火で煮詰める(モストコット作り)

半年寝かせアルコール発酵させる

樽に入れて酢酸発酵をさせる

熟成と毎年の液体の移し替え作業

という順序となります。毎年秋にバルサミコ酢の唯一の原料となるモストコット(葡萄の絞り汁を直火で煮詰めたもの)を作ります。

我が家では、葡萄づくりをベテランの方にお願いをしており、毎年収穫の2週間前に連絡がやって来ます。初めて夫と2人でモストコットを作った時もこの連絡が始まりでした。折しも私は6月に長女を出産したばかりで、バルサミコ酢の事まで頭が回らず、後2週間でおおよそ3トンの葡萄が来るというのは現実に引き戻されるような気がしました。

 

本場のバルサミコ酢作りに必要な物

まさか、3トンの葡萄を2人で足踏みで潰すわけにもいかず、できたモストコットを保存する容器も必要。ざっと考えてもこれだけのものを揃えなくてはなりません。

1,除梗破砕機 葡萄の実と果梗を分けて実を半潰しにしてくれる機械
2,油圧式圧搾機
3,ガス大釜
4,葡萄を入れる入れ物33個
5,煮詰めたモストコットを保存する1500Lのステンレスタンク

そこから急遽モデナに急行。農工器具のお店や専門メーカーに出向き、はたまたネットオークションまで駆使、さらにはトラックをレンタルして走り回った末、全てが揃ったのは、葡萄が届く日の朝でした。この年新生児を抱えて授乳しながら作った、初めてのモストコット作りは忘れられません!

後から知った事ですが、これだけの大掛かりな器具が必要な葡萄の作業。現在バルサミコ酢作りを個人でしている人のほとんどが、原料のモスト(葡萄の絞り汁)やモストコット(葡萄を直火で煮詰めて濃縮したもの)を購入しているのが現状です。ですが、私も夫も生粋の都会育ち、一から作るのが当たり前と思い込んだところが始まりでした。

 

バルサミコ酢の熟成について〜100キロの葡萄からできる25年熟成のバルサミコ酢はたったの2-3リットル!〜


最後の熟成と移し替え作業については細かい説明が必要でしょう。

バルサミコ酢を伝統的な製法で熟成させるには、寒暖の差が激しい屋根裏部屋におくことが必要です。最低でも大小容量の異なる5-9個の樽を一式とし、一定期間の熟成後、1年に1度移し替え作業を行います。小さい方の樽に隣の樽から蒸発した液体分を補充します。

樽の上部に開いたコキューメという蓋の部分からは勿論、液体が樽壁に染み込みますが、外部に蒸発する年間の量は10-20%と気候に左右されやすく、毎年一定ではありません。この移し替え作業を経て、12年経った時点からバルサミコ酢を採取できるようになります。その量は最小樽の8%以下が望ましく10リットルの樽からは800mlも採れないのです。100キロの葡萄からできる25年熟成のバルサミコ酢は2-3リットルと言われています。

何年も木樽に入ったバルサミコ酢は濃縮し、粘度が増し、木材と酵母と酢酸菌の複雑な相互作用により芳香が増します。ワインの製造では樽にワインを入れて蓋をして、熟成を行い、樽は数年で廃棄されますが、バルサミコ酢は毎年樽の手入れを怠ることなく移し替え作業を繰り返し、50年、100年と使い続けることによって、芳香が高まり、価値が上がるのです。言ってみれば、樽無くしてバルサミコ酢はできないのです。ワインは瓶詰めをして時間がたつと価値が上がるものがありますが、バルサミコ酢は樽の中にある時間が最重要なのです。

伝統的な製法でないものは、原料にモストコット以外にもワインビネガー、その他諸々の混ぜ物が入り、数カ月から数年の熟成を大きな樽で行って、瓶へ詰められ市場に出されるので、熟成期間も味も香りも全く違うもの。お値段もお手頃ですが、一度伝統的なバルサミコ酢の香りを知ったら、誰しもが虜になる事、請け合いです。

 

モデナでバルサミコ酢を使った料理を教える料理教室を開講


イタリアへ来た日本人がイタリアで仕事をする。はっきり言って大変です。

言葉や習慣の違いもあり、イタリア人と同じ土俵では断然不利でしょう。日本の良さを知ってもらう仕事をしたい。そう強く思い、私は日本の家庭料理をイタリア人に教えることを始めました。

夫と付き合いだした頃から、まずは夫の友達を対象にした家でのお料理教室を始め、現在では北イタリアを中心にあちこちのクッキングスクールに講師として呼ばれ、家庭料理を中心とした和食を教えています。

管理栄養士として日本で働いていた経緯もあり、栄養価、科学的な説明はもちろん、文化的な背景も交えてのお料理教室はイタリア人にも魅力を感じてもらえるようです。


10年ちょっと前、小さなお料理教室だったかもしれませんが、私に取っては意味の大きいものでした。夫を頼りにせず、自分の世界をイタリアで作る事ができる、収入も得られるという外国で生活していく中で、精神的な支えになった部分がすごく大きかったのです。

バルサミコ酢作りには気の遠くなるような熟成期間が必要ですから、すぐに採算を考えては成り立ちません。

「時間と情熱とお金をかけたいだけかける趣味の領域だね。」

といつも夫と話して笑っています。

イタリア人の中でも料理に興味がある、もしくは料理関係のことを仕事にしているのにも関わらず、伝統的な製法で作るバルサミコ酢を知らない人が多すぎる。ということに気が付き、お料理教室をする中バルサミコ酢の話も織りまぜる様になりました。その生徒さんの中から是非バルサミコ酢に醸造室を見学したい、せっかくだからバルサミコ酢を使った料理も教えてください。という様なオファーがあり、バルサミコ酢の見分け方や、使い分けなどを講習する事を始めました。

モデナに住んでいるのだからモデナの良さを知ってもらいたい。バルサミコ酢知ってもらいたいという気持ちが大きくなって来たのは、おそらく終の住処となるであろう第二の母国イタリアに愛が目覚めたからでしょうか?

もし日本からモデナのバルサミコ酢の伝統を知りたいという方がいらしたら、是非ご連絡をください。私の住むバルサミコ酢の世界「バルサミックランド」をご案内いたします!



Akane in balsamicland – Facebookページ
バルサミックランド(イタリアはモデナ)での日常をバルサミコ酢の醸造の紹介、バルサミコ酢を使った料理、モデナならではのエピソードを取り混ぜて紹介しています。ご希望によりイタリア人、日本人にバルサミコ酢の識別の仕方や、バルサミコ酢を作った料理を中心とした教室を企画いたします。ぜひご連絡をお待ちしています!


モデナで働くAkaneさんのバルサミコ酢作りにかける情熱、そして彼女の現地での生活を全3回の連載としてお届けしました。今回で最終回となります。過去の連載は、以下のリンクから読めます。

連載第一回目:イタリアで活躍する日本人:モデナで伝統的バルサミコ作りに挑戦!
連載第二回目:モデナでバルサミコ酢ソムリエとして活躍する日本人女性

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Akane

Akane

投稿者プロフィール

2007年にイタリアはモデナの旧家に嫁ぎ、9年前から伝統的バルサミコ酢作りを始めました。現在ではABTMのコンソルテリーアが認定する、日本人初のバルサミコ酢のソムリエAA(aspirante assaggiatore)資格を有し、マエストロ資格を目指して勉強中。

管理栄養士のノウハウを生かし、イタリア各地でイタリア人向け日本家庭料理を教えています。また日本人シェフのイタリアでの研修のコーディネートなど日伊食文化の交流をお手伝いをしています。

歩くことが大好き。日本の四国遍路、スペインのサンティアゴ巡礼を完歩。たまたま家の前を通るVia Romea Nonantolana 巡礼道の復旧をNPOを立ち上げ支援活動中。二児の母。

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