イタリアで働く日本人:イタリア発祥のモンテッソーリ教育を世界で学ぶ

ー世界のモンテッソーリ教育現場からー
モンテッソーリ教育に導かれるまで

連載第一回目では、モンテッソーリ教育との出会い、そして私が「幼児教育」という世界の扉を開けるまでの経緯をお話しました。今回は、東京でのモンテッソーリの0歳から3歳まで「Assistant to Infancy AMI(国際モンテッソーリ協会)国際コース」での学び、そして卒業後にモンテッソーリ教師として働き始め、それがきっかけで福岡、ロンドンと住む土地を移すことになったお話をいたします。

 

モンテッソーリ教育の扉を開けて:忘れられない恩師のお言葉

モンテッソーリの0歳から3歳までの学び「Assistant to Infancy AMI(国際モンテッソーリ協会)国際コース」は、2000年の春、横浜で日本初の第一回目のコースがイタリアからトレーナーを招待して開講され、私は「Assistant to Infancy」 と呼ばれる乳幼児の援助者となるべく命の発達について学ぶため、このAMI国際コースに参加しました。

子どもがその人生で初めて出会う環境は、母親の子宮の中です。受精した瞬間から、お腹の中で生命が人類の歴史を繰り返します。

このコースでは、「子どもが一個体としてどのように育っていくのか」を正しく理解し、子どものそれぞれの段階での発達に合わせた環境作り(母親であれば話しかけたり、音楽を聴いたり)、パートナーと協力して助け合いながら、出産の準備をしていく事を中心に学びます。

産まれた家庭、親戚、地域、町、社会、国、世界、宇宙と子どもの接する空間は徐々に広がりますが、モンテッソーリ教育では、それぞれの段階で子どもが自立できるように促します。そして、その環境の一員となれるよう、子どものいのちの発達を尊重し、大人は見守り、援助する存在です。そのための具体的な大人の在り方や方法を学ぶ場が「0歳から3歳:乳児アシスタントコース」です。

私はここで「幼児教育」というものに初めて出会い、このコースでは本当に多くの学びがあったのですが、中でも印象深かったのは、卒業も間もないある日のことです。アメリカで同時多発テロ事件が起こり、世界中が動揺していました。卒業後の進路についても再び考え始め、再びやっぱり写真をやりたいなという気持ちが心を霞んでいたころです。

ある午後、先生の書斎に呼ばれた私は、「あなたにとって教育とは何か?」と聞かれました。しばらく考え込み、言葉の出ない私に、先生ははっきりと私の目を見ながらこうおっしゃいました。

『教育は芸術です。本物の芸術は新しい人間を作ることなのです。』

「ああ、そうなんだ!教育ってすごいことなんだ!」と目から鱗でした。人は生涯のうちに、インスパイアし、自分を高めてくれる素晴らしい恩師に何人出会えるのでしょうか。

そして、先生はこう続けました。

『本物の教育者は、扉を開けてあげるのみです。そこから先を歩くのはあなた自身です。誰も代わりには歩いてあげられません。』

『これは子供の教育を理解するために、非常に大事なことです。私たちの中にも「子供のような自分が確実に住んでいます。』

このような先生のお言葉が心に深く残り、まだずっと聞いていたかった、と思えるようなモンテッソーリアンとして人生初のレッスンでした。

その春に無事にAMI国際モンテッソーリ協会公認の0歳から3歳児支援の国際教員資格を得て、私はモンテッソーリアンとなったのです。そして、以前は知る由もなかった、この時の先生のお言葉の数々に、その後の人生でもずっと支えられることになるのです。

 

福岡のモンテッソーリスクールにて:もっと学びたい!

無事に東京での1年間の「0歳から3歳:乳児アシスタントコース」を終え、国際ディプロマを取得した私は、地元、福岡のモンテッソーリスクールに0歳-3歳児のクラスのお手伝いに行く事になりました。

福岡のモンテッソーリスクールに行き始めた頃、あるペルー人の家族が転入してきました。私は思春期をスペインで過ごしたため、スペイン語が話せましたので、その子どもと家族のお世話や通訳をするように園長先生に頼まれ、5歳だったその男の子を援助するべく、3歳-6歳児の縦割りのクラスへ入ることになりました。ここで大きな壁にぶち当たります。

3歳-6歳児のクラスには、モンテッソーリメソッドの美しい教具が並んであるのですが、その使い方がわからないのです!担任の先生は、その子どもと言葉が通じず、困っていました。そこで私は毎朝、自分の担当であった0歳-3歳のクラスを飛び出て、こちらのクラスに通うこと一年、モンテッソーリ教育についてもう少し学びを深めたいと思うようになりました。そのペルー人の子どもに出会っていなければ、私は次の段階(3歳-6歳児について)を学びたいと思っていなかったかもしれません。

そこで私は、早速恩師に手紙で相談しました。するとすぐに返事が来て、「ロンドンの国際コースが素晴らしいのでロンドンに行ってみては?学びを深めたいのならば、直ぐにあなたのために推薦状を書くのでロンドンで3歳-6歳児のコースを学びなさい。」というお言葉でした。そこから急いで、ロンドンのコースについての情報収集に奔放し、各種の手続を済ませ、その旨をお世話になっていた福岡の園長先生へ伝えると、大賛成してくれました。そんなこんなで、秋にはばたばたとイギリスへ渡ることになりました。

 

ロンドンのモンテッソーリAMI国際教師育成センターでの学び
〜ロンドンで働くまで

ロンドンでは、3歳-6歳児の援助者になるべく、AMI国際教師育成センターで学びました。

イギリスのコースは歴史が深く、素晴らしいスタッフとトレーナーに恵まれたとても豊かな環境です。モンテッソーリ研究のカリキュラムは、理論科目と実技指導に大別され、理論科目では、モンテッソーリの幼児心理教育、実践を学びます。実技指導では実際にモンテッソーリ教具を使っての実践、観察、教育実習を行います。生徒は世界中から集まり、国際色豊かです。各分野は日常生活の練習、感覚教育、言語教育、数教育、生物、地理、歴史、アート、宗教などが含まれます。

これらの講義を受けて、自分のアルバムを書き上げるのです。アルバムとは、世界でたった一つの自分の言葉で書きあげるモンテッソーリ教育の実践理論の教科書です。夜も寝ずに書き上げたアルバム、数冊が出来上がる初夏に試験があり、口頭と実技に合格して初めて、モンテッソーリ国際教員資格が与えられます。

それはちょうど、試験の真っ最中のことでした。遅くまで時間を忘れて学校に残り実技の練習をしていた私は、寮の夕食の時間を見逃すところでした。早く帰らなければ、と教室を出て、階段を駆け下りた瞬間に、またもや運命の出会いがあったのです。ちょうど階段の踊り場で、校長先生が上品な金髪の女性と立ち話をしており、上から駆け下りてきた私を見るなり、「AIKAがいるじゃない!パーフェクトよ!」と言われたのです。何が何だか訳が分からず目を点にしていると、その金髪の女性は満足そうな笑みを浮かべ、私を眺めていました。

彼女はロンドン初の0歳-3歳児のための施設を立ち上げるべく、センターに相談に訪れていたのでした。当時私はすでに0歳-3歳児の国際資格も持っていましたから、「あなたの仕事ね!」と校長先生に肩をポンと叩かれたのです。

それからというもの、卒業も未だだというのに、ぜひ、手伝ってほしいと毎日、熱い思いを聞きました。それでイギリスでの労働ビザも頂けることになり、卒業後すぐにロンドンで0歳-3歳児のための施設の立ち上げメンバーに加わったのです。

卒業後日本に帰ることもできましたが、ぐいぐい引っ張られるその力に直感で素直に従ってみようと思いました。このことを誰よりも喜んでくださったのは、まぎれもなく恩師モンタナーロ先生でした。わざわざローマからロンドンまで見に来てくださり、たくさん助言を頂きました。卒業後、このような流れから私はロンドンで働くことになりました。

人生とは面白いもので、3歳-6歳児のコースを学びに来たのに、卒業した私を待っていたのは再び0歳-3歳児の世界でした。でも、原点に戻るという一心、よいものを作ろうという気持ちで一生懸命取り組みました。逆に3歳-6歳を学んだことで、大きな視野で子どもの発達を見守れるようになり、改めて土台の大切さを思い知ったのもこの時期です。

ロンドンでの新たな仕事もスムーズにスタートし、学校も無事に動き出した頃、姉がローマで結婚することになりました。恩師に報告も含めて、イタリアへ渡った私にクリスマスの最大の贈り物が待っていることも知らずに、また運命は新しい扉を開きます。

ここまで東京での0歳-3歳児の学び、福岡でのモンテッソーリアンとしてはじめての仕事、ロンドンでの3歳-6歳児の学び、そしてひょんなことからロンドンで0歳-3歳児のための施設の立ち上げに携わるまでの経緯をお話しました。次回は、姉の結婚を機に再びロンドンから住む場を移すことになったお話をいたします。

 

つづく・・・

ミラノで働くAikaさんのモンテッソーリ教育との出会い、実践、そして現地の彼女の生活を全3回の連載としてお届けしています。最終回のつづきは8月〜9月頃更新予定です。お楽しみに!

前回の連載

第一回目:イタリアで働く日本人:ミラノでモンテッソーリ国際教員として働くまで

AikaAMI (国際モンテッソーリ協会) 公認モンテッソーリ国際教員

投稿者プロフィール

AMI (国際モンテッソーリ協会) 公認モンテッソーリ国際教員資格者。2004年にイタリア人との結婚を機にローマに渡る。現在は家族でミラノ在住。現地のモンテッソーリ教育のバイリンガルスクールに勤務する傍ら一児の母親としても奮闘中。思春期からスペイン、 アメリカ、ドイツ、イギリスでの生活経験を通して多文化への造詣も深く、ロンドンではモンテッソーリスクールの立ち上げも行う。英語/スペイン語/ドイツ語/イタリア語が堪能。趣味は写真、アート、旅とグルメ。美味しいものや美しいものが大好きです。母親の視点から見たイタリアの情報も発信していきます。

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コメント

    • Aika
    • 2017年 8月 10日

    山谷貴代さま

    コメントをありがとうございます。以前のアメブロの時から、読んで下さっていたなんて… とても嬉しいです。

    現在は、ミラノでモンテッソーリ バイリンガル教育に携わっています。息子も中学生になり、ますます大きくなりました。今年9月から、またブログも再開しますので、どうぞお楽しみに。

    今後もイタリアと日本を繋ぐ架け橋的な存在で現地の旬な情報を発信していきます。どうぞよろしくお願いします。

    • 山谷 貴代
    • 2017年 8月 06日

    はじめまして。
    モンテッソーリ教育を少し取り入れている園で保育士をしています。子育てが落ち着いたら、いつかモンテッソーリ教師の資格を取りたいと思っています。

    綿貫さんのことは以前、育児雑誌やブログを読ませていただき、応援させていただいておりました。フェイスブックをなさっていると知りさっそく拝見し、さらなるご活躍ぶりを嬉しく思っています。

    来週東京で開催される大会にもご参加されるそうですね!私も園のモンテッソーリの先生方と参加いたします。
    綿貫さんのお姿が拝見できますようにと願いながら、私自身もしっかりと学びを深める時間にしたいと思います。

    Takayo Yamaya

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