まるごと一冊、ボローニャブックフェア! 『ボローニャてくてく通信』を創刊 第二回

『ボローニャてくてく通信』創刊に至るまで

2017年のボローニャブックフェア会場入り口。
ボローニャブックフェアといえば、まず浮かぶのがこの光景です。

ボローニャブックフェアでは「奇跡」が起こる

連載第一回では、ボローニャブックフェアに日本の美術館ではじめてふれた学生時代から、2016年に現地取材に出向くまでをたどりました。ウェブでのニュース記事発信に加えて、『ボローニャてくてく通信』を立ち上げようと思った背景はいかに? どうぞお楽しみください。

憧れの地では日本人が活躍

2017年ボローニャブックフェア風景。中央エリアにはこの年、テント地のハンモックがたくさんぶらさがっていて、来場者が疲れた足を休めていました。テント地にはフェアに関連するイラストが大きく印刷され、関連する本などが座席部分に備え付けられていました。

ボローニャブックフェアはよく、さまざまな奇跡が同時多発的に起きる場所、と表現されます。はじめて目の当たりにした会場は、まさにその言葉をそのまま現実にした光景でした。

目の前で商談をしているかと思えば、すぐ後ろでは何かの賞の授賞式が行われ、編集者が走り、イラストレーターが走り、みなが未来の一冊を生み出そうと手を動かしています。絵本作りの胎動を、大きな子宮の内側から眺めるような感覚に陥りました。

ものを作る人同士がひとところで出会って、あっちでもこっちでも未知の創造が繰り広げられている−−。これを「奇跡」と言い表すのだろうと、感覚的に理解する自分がいました。

そして、驚いたのが日本人の多さです。板橋区立美術館の発信で部分的には知っていましたが、これほどとは思いませんでした。

中央ホールに構えるJBBY(日本国際児童図書評議会)カウンターには、板橋区立美術館の面々や、ボローニャ在住のイラストレーターのだよしこさんがほぼ常駐。また、日本の出展ブースはおおむね同じエリアに固まっていて、ご近所さん同士のやりとりも見られます。編集者時代の先輩がたに再会したのも、一度や二度ではありません。はじめての海外取材に緊張していた私ですが、こうした存在を「家」のように感じることで、ガチガチの体が少しほぐれていきました。

わすれられないメッセージメモ作戦

2016年「メッセージメモ作戦」で使った、名刺裏に手書きのメッセージメモ。本文にある、まさにその日の朝の写真です。10枚が完成して、ほっとして写真を撮りました。

私はフリーランスですから、国内で仕事をするときも自分ひとりの技術と勘が頼りです。海外取材でもそれは変わりませんが、言葉や文化が違うなかでもほしい記事材料を安定して手にするには、国内の何倍も気を使います。そうやってあくせく動き回る状況を、まわりで見守ってくれる存在がいるだけで、なんと心強いことか。

そうそう、初渡航の2016年には、こんなエピソードもありました。

フェア2日目、明日にはボローニャ国際絵本原画展の授賞式が行われるという時のことです。私は一人、もんもんとしていました。

「日本人受賞者が集まるのはここしかない。けれど、わかっているのは彼ら10組の名前だけ。面識もない彼らに私の存在を知ってもらって、しっかりコメントを取るには一体どうしたらいいんだろう……」

この授賞式はフェアの一番の見どころといえ、受賞者たちの作品を知る手がかりとしても、どうしてもコメントがほしかったのです。当日の会場シチュエーションを想像しようにも限界があり、お手上げだった私は、板橋区立美術館の松岡希代子さんのもとを訪ねました。「そんなの知らないよ」と言われるのを覚悟で……。

かくかくしかじかで、と話すと、松岡さんは少しうつむいて考え、こう言いました。「受賞者はみんな壇上から一方向に下りてくるから、そのときにメモをわたすっていうのはどう? 」

私の名前とメッセージを書いたメモを、ステージから颯爽と歩いてくる彼らに手渡すという案です。目からうろこが落ちるとはまさに、あの時をいうのでしょう。それなら、たしかにすべてが解決しそうです。

翌朝、少し早めに会場入りした私は、自分の名刺の裏に大きめの文字で「式終了後、取材させてください」と受賞者たちへのメッセージをしたためて懐にしのばせ、授賞式にのぞみました。結果は大成功。無事に受賞者たちの声を日本に持ち帰ることができました。

読み物で、がんばる日本の絵本人を応援したい

ブックフェアに毎年設置される、イラストレーター用のアピールボード。大きな壁面いっぱいに、訪れたイラストレーターたちが自分のPR用チラシなどを次々に貼り付けていくので、こうなります。これも代名詞的な光景です。通りがかりの編集者が好みのイラストを探したり、他のイラストレーターが他人のを見たりする場所です。

ボローニャの地は私にとって、もはやアウェイではない−−。過去3回のブックフェアを経て、こんな気持ちがだんだんと私のなかに育ってきました。それはやはり、フェアをキーワードに集まる人々のふところの深さゆえでしょう。

メモ作戦のアイデアをくれた松岡さんはもちろん、会場や街のいたるところで、たくさんの人の温情をいただいているなあといつも感じるのです。そのひとつひとつが、奇跡的に仕事を成り立たせているといっても過言ではありません。そう考えれば私もすでに、ボローニャブックフェアのミラクルの内側にいるのかもしれませんね。

仕事だけれど、ただの仕事ではない。言葉ではうまく言い表せないほど、ふくふくと豊かなこの場所に、だれかの力になるような新たな種をまけるといいなあ。

それって、私の場合は文章を書くことなのかもしれない。そう思ったのが、『ボローニャてくてく通信』を生み出す原動力の大きなひとつになりました。

私にできるのは、日本語で文章を書くこと。そして企画を考えることです。それになぜか昔から、ものをつくるアーティストが友人に多かったので、彼らのかたわらで同じ空気を吸うことは、私にとってごく自然です。

『ボローニャてくてく通信』では、こうした私のできることや自然体をぎゅっと詰め込んで、日本のがんばる絵本人を応援できたらいい。そう考えています。材料となる情報は、ボローニャや日本のあちこちを、私がてくてく歩いて選りすぐっています。

さて、はじめての配信まであともう少しです。とりとめもなく話してきましたが、お楽しみいただけたでしょうか。

2018年のボローニャブックフェアは3/26〜29日の4日間でした。現地をてくてく取材して、もくもくと文章を書いて、とっておきの創刊号をみなさんにお届けしたいと思っています。もし気になったら、『ボローニャてくてく通信』Facebookページをチェックしてみてください。購入や各種情報チェックができますよ。

この小さな読み物が、だれかの「奇跡」の種になってくれたら、こんなにうれしいことはありません。

ボローニャてくてく通信登録情報

ボローニャてくてく通信
https://www.facebook.com/bolognatektek/

■配布形態
2018年6/15(金)、7/13(金)、8/3(金)の全3回、
事前登録メーリングリストにて配信
※3回すべて受け取ると『ボローニャてくてく通信』1冊が完成します。

■メーリングリスト登録期間
5/27(日)23:59まで受付中

■メーリングリスト登録料 3240円(税込)

 

ボローニャブックフェアの様子を日本で発信し続けるてらしまちはるさんのボローニャブックフェアとの出会い、絵本の世界への情熱、そして彼女のご活躍ぶりを全2回の連載としてお届けしました。ご登録、お問い合わせは直接てらしまさんへお願い致します。たくさんの方々のご登録をお待ちしています!

てらしま ちはる

投稿者プロフィール

児童書編集を経て、絵本専門フリーライター。絵本ナビなど国内の各種ウェブ媒体や雑誌で執筆。2016年9月には雑誌『AERA』(朝日新聞出版)で、読書関連特集に登場した。女子美術大学ほかで特別講師も。2016年より始めたボローニャブックフェア独自取材を今年、『ボローニャてくてく通信』として発表する。

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