息子を送ったローマの学校、ミラノの教育現場から
連載第一回目、第二回目、第三回目を通して、モンテッソーリ教育との出会い、そして私が「幼児教育」という世界の扉を開けるまでの経緯、東京でのモンテッソーリの0歳から3歳まで「Assistant to Infancy AMI(国際モンテッソーリ協会)国際コース」での学び、そして卒業後にモンテッソーリ教師として働き、その後ロンドン、ローマと住む土地を移すことになった経緯、イタリアの本場のモンテッソーリ教育の真の目的とは何かなどについてお話ししました。最終回となる今回の連載第四回目では、ローマとミラノでの私自身の子育て体験、モンテッソーリスクールに通う息子の様子、ミラノの職場、そこで見て感じて実際に体験した本場、イタリアのモンテッソーリ教育についてお伝えいたします。
ローマでの子育て、モンテッソーリ教育法にて
自分の子供を育てるということ
自分の子供を育てるということ
結婚後、ローマでの生活、出産、また現地での子育ての体験を通して、私はいろんなことを学びました。モンテッソーリアンである私が子育てをしながらいつも意識しているのは「感じる」ということです。
赤ちゃん時代は、よく「観察」もして、今、この子にとって何が必要なのかを感じ取る母親の直観力を育ててくれました。そして、常に与えられた現実をベースに工夫して、楽しむことも味わいました。我が子の成長と共に、一緒に立ち止まり、考えて、手を出しすぎない。子供が自分で発見できるように余白を残そうと意識的に努力しました。子育ては体力勝負でもありますから、忍耐も与えてくれました。母親というのはどの国、時代、文化でも自分を無にして、子供を愛し、守り最善を与えようとするものです。無償の愛を与える、とは素晴らしい体験であり、人間の器を大きくしてくれます。
ローマのモンテッソーリスクール
息子がローマで通わせて頂いたモンテッソーリスクールでは、かつてモンテッソーリ博士の愛弟子であった方が校長先生をしておられました。この学校は、長い歴史があり、モンテッソーリ博士の生命の息吹が感じられる雰囲気を保っています。
ひとりひとりの人格を尊重し、見守り、自立へと導く、そのためにアットホームな少人数制を厳守して、親にも理解を得る。まさしく伝統の中に守られたモンテッソーリ博士のきめ細かい心配りを感じました。
モンテッソーリ園は縦割りで、自由選択のお仕事があります。子供が自由に選べる、ということは、とても大事なことです。大人はその準備された環境の中で、子供たちに興味の種を蒔き、見守り導きます。大きな子は小さな子を助ける、これも社交性を育てる貴重な体験です。
ここで学ばせて頂いたことは、一言では言い表せない一生の宝です。母親として常に我が子を愛し、信じて、彼のポジテイヴなイメージを想像する、イマジネーションする。その温かい場所を自分の心のうちに持ち、こと花に水を与えるように育てる。お母さんはいつの時代も目先のことに必死ですが、一歩引いて自分を客観的に見ること。その心の穏やかさや平和な気持ち、それこそが幼児期の子供の安心する居場所である、ということを教わりました。ですから、参観日も自分の子どもは連れてきてはいけないのです。他者の子どもたちと先生との関りを観察するように勧められます。これはその環境の空気を我が子に一点集中してとらわれずに、見る、感じるという想像以上の贈り物でした。その中で「ああ、息子もこういう空気の中でお仕事をしてるのだ」と想像します。そして、生き生きと自分の大好きな作業に打ち込み、集中している姿をイメージします。先生の語りかけが柔らかく優しいこと。それで感謝の気持ちも芽生えます。
息子は二歳児クラスに通いだし、子供の家の三年間、小学校低学年までこの素晴らしい学校で過ごしました。6歳までは、「自分でできるように手伝ってください」、がスローガンですが、小学校は違います。モンテッソーリ教育は発達段階により、環境も生きていますから、変わっていくのです。自分で考えられるように手伝ってください、という風にダイナミックに広がりを見せていきます。更に拡がる子供の興味を内から満たしていく環境、それがコスミック教育です。宇宙のような大きなものから与え、自分の立ち位置を確認していきます。バックボーンにはすべての学問はつながっており、お互いに共存している、という理論があります。私もここで週に二度ほど、折り紙や幾何学を教えるチャンスにも恵まれました。ここでの出会いはその後もずっと続き、かけがえのない友情となりました。
クレヨンハウスのモンテッソーリ教育特集取材
この時期にクレヨンハウス出版の育児雑誌、クーヨンの取材を受けました。現地で息子をモンテッソーリ幼稚園に通わせながら、自分もモンテッソーリアンとして育児に奮闘する様子を取材して頂きました。詳しくはぜひそちらもご覧ください。
*モンテッソーリの子育て。0歳からのお手伝い。(クーヨンBOOKS)クレヨンハウス
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ローマからミラノへ。
モンテッソーリスクールの立ち上げに新たに関わることに
モンテッソーリスクールの立ち上げに新たに関わることに
モンテッソーリ教育メソッドの言語教具一例:著者撮影
ローマでの子育てが少し落ち着いて、息子がモンテッソーリ小学校の二年生になったある日、不思議な出会いがありました。ミラノで新しいバイリンガルのモンテッソーリ・スクールを作るので手を貸してみないか、とAMI(国際モンテッソーリ協会)本部の恩師から持ちかけられたのです。恩師は、「イタリアでの子育ても落ち着いてきたころでは?やってみてはいかが?」と直々お声をかけて下さいました。のちに良き同志となる現在の校長に出会うべきして、出会い、意気投合。まだ何も建てられてないゼロの状態。白紙の状態からのスタートです。真っ白い設計図の構想から、アイデアを出し合い、この生まれたばかりの新しいプロジェクトに携わることになりました。
持ち前の好奇心と情熱、直観で「是非、これはやってみたい!」と思いました。ここでは、必要な教具の注文、環境設定、教師の育成、教材の準備、保護者への説明、建築家と光の入り具合やスペースの間取り、特に子供サイズの家具など、議論討論を何度も重ねました。妥協はできません。よいものを作りたい、そんな一心な私を見て、夫も賛成してくれて、しばしローマから通ってのお手伝いでしたが、二年後に私たち家族は生活の拠点をミラノへ移すことになりました。息子は小学校三年生からミラノのモンテッソーリへと転校したのです。変化とは準備ができた時に訪れる、呼ばれてるときは行ったほうがいい。あなたにしかできない仕事を成してきなさい。これは恩師モンタナーロ博士がミラノへ発つ前に送ってくださった言葉です。
ミラノのバイリンガル・モンテッソーリスクールから
未来へ繋ぐ
未来へ繋ぐ
1908年にイタリア第二の子供の家としてスタートしたL’Umanitariaの敷地内で始まったこの学校も、その後、現在の場所に引っ越して、ようやく7年目を迎えます。月日は流れ、去年、ミラノで息子は中学生になりました。
現在私はモンテッソーリ教育の現場で日々、子供達の輝かしい生命のエネルギーを感じながら、イタリア人やアメリカ人、イギリス人、フィンランド人の同じモンテッソーリに魅せられた同僚たちに囲まれて、協力しあい、補い合い、一緒に前進するという貴重な学びの時間を頂いています。幸運にもミラネーゼの保護者の方達にも温かく受け入れられ、温かいインターナショナルな環境でとても恵まれていると思います。
初めて横浜でモンテッソーリ教師のデイプロマを取った時から、17年の月日が流れていました。改めて、更にこの教育の素晴らしさを実感する日々です。子供の家では輝かしい目をキラキラさせて、子供たちが待っています。私たちの小学校には教科書も時間割もテストも偏差値も存在しません。子供が自ら教科書を書くのです。教師はそれをそっと見守り、導く役割です。2歳半から12さいまでのモンテッソーリの環境で、子供達は日々、深く集中して、学べる喜びにあふれています。
自らの興味が出発点になるとき、子供の学びは余白を与えらます。大人から一方的に教えられるのではなく、本質的に「自分で発見する喜び」を知った子供はなんて幸せなのでしょう。学びの基本はここにあります。楽しい、ワクワクする、そんな豊かな種蒔きをして土壌を耕し、大人はその種が豊かに育つように余計な手は出さず、適度に水をやり、日当たりののよい環境を整えて、土中の芽が開くのをじっと待つ。それは未来への出発点であり、自己教育の原点です。つまるところ、人生とは自分自身へ完成されていく旅なのです。そこに優しく寄り添い、すべての子どもたちの命が育つお手伝いをする、真の教育は内から強めてくれます。その贈り物は一人一人の生涯を支えるでしょう。それは、難しい言葉で言えば、子供の「魂の秩序を引き出す」本物の教育なのです。
もちろん、アモーレあふれる子育ての国、イタリアでも仕事と家庭の両立の大変さはあります。働く母なりの努力や工夫も数知れず。でも、この国には自己肯定力の強い子供達がたくさんいます。それは親だけではなく、家族や社会がとても優しいから。子供を愛し、見せびらかし、自慢し、褒めて、褒めて、褒めまくる文化があるのです。そして、子育てに協力的で子供の教育の第一線に父親も積極的に参加をします。そんな環境に支えられ、励まされ、現在に至っています。
私はそんなイタリアで子供達の教育に携われることを喜ばしく思います。そして、私が学んだ国々はもちろん、母国である日本ともう一つの家、イタリア。両方の文化の豊かさや良さを日々しみじみと感じています。明日は今日とは違う日です。子供たちには希望があるから、ずっと続けていきたい。本物の教育とは、「可能性への挑戦」でもあるのです。
おわり・・・
ミラノで働くAikaさんのモンテッソーリ教育との出会い、実践、そして現地の彼女の生活を全3回の連載としてお届けしました。この連載により、イタリアで実践される本場のモンテッソーリ教育についてのみなさんの理解が深まれば幸いです。
前回までの連載
第一回目:イタリアで働く日本人:ミラノでモンテッソーリ国際教員として働くまで
第二回目:イタリアで働く日本人:イタリア発祥のモンテッソーリ教育を世界で学ぶ
第三回目:イタリア発モンテッソーリ教育の真の目的
コメント
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鈴木様、コメントを頂きましてありがとうございます。別途こちらの記事の執筆者ご本人よりメールをいたします。今後ともイタリアざんまいをどうぞよろしくお願い致します。
Aika様
ブログ拝見させて頂きました。
東京でAMI3-6を卒業しモンテッソーリ教師をしております。
5月に旅行でフィレンツェに行くのですが、本場のモンテッソーリ園を見学できたらと思い調べていたら、Aika様のブログを見つけました。フィレンツェにモンテッソーリ園があるかご存知ですか?
突然申し訳ありません。
よろしくお願い致します。
Otaka様、
コメントを頂きましてありがとうございます。別途メールにてお返事をさせて頂きました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
Aika様
はじめまして。幼児さんから中学生までの学習塾を主宰しております大高と申します。
モンテッソーリ教育については、5年前、日本モンテッソーリ教育研究所の「実践研修室」で学習致しました。
5月に、ミラノ・ローマに行くので、モンテッソーリ教育について触れられるところがございましたら、
教えていただけないでしょうか。突然のお願い、申し訳ございません。
よろしくお願いいたします。